2011年9月30日金曜日

ネットも携帯もない時代

229 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 18:57:00.07 ID:W656mdNS0
【フォックスハンティング】 
俺がバーで占い師兼店長代理をしていたずっと前、高校二年の時のお話し。 
 
当時はネットも携帯もない時代で、 
学生の間でもCB無線やアマチュア無線がそれなりに流行っていた。 
俺もアマチュア無線の免許を持っていて、 
夜遅くまで友達としゃべったり、電話代わりにしていた。 

230 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 18:58:04.31 ID:W656mdNS0
無線にはさまざまなコンテストがある。
規定時間内にどれだけ多くの相手と通信したか、どれだけ遠くと通信したか、などだ。
確か9月だったと思う。
俺が通っていた高校の無線部は、あまりやる気がなく、コンテスト不参加が定例だった。
そもそも俺は、無線部に所属していなかった。
そんな俺に、無線で知り合った他校から、コンテストの助っ人依頼がきた。
アマチュア無線は免許制なので、参加資格を持っている者が多くないからだ。
  ※交代制で通信し続けられるから、人数が多い方がいい。
  ※無線には無線機を操作していい資格と、電波を出していい資格がある。
231 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 18:59:08.80 ID:W656mdNS0
コンテスト当日、俺は他校でコンテストに参加した。
が、深夜になってくると、さすがに飽きてくる。
そこで休憩中の連中で、フォックスハンティングをしようと言う事になった。
  ※フォックスハンティング
   ttp://www.weblio.jp/wkpja/content/フォックスハンティング_フォックスハンティングの概要

そのときのルールは、二人一組で三チームに分かれ、
鬼役が校舎のどこかに隠した低出力設定無線機を、
ポータブルタイプの無線機で探し出すことだった(台数の都合で二人一組)。
232 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 19:00:13.08 ID:W656mdNS0
フォックス(隠された無線機)の出す電波は、144Mhz帯の特定周波数(以降チャンネル)でFM波。
俺は同学年のAと組み、アンテナの向きや感度を調整しながらハンティングを開始した。
無線機とアンテナは、過去にハンティング経験のある俺が持ち、
校舎の土地勘のない俺をAが案内する、という役割分担にした。

しばらく校舎をさまよっていると、何者かが無線の作法を無視して、チャンネルから呼びかけてきた。
  ※無線の作法とは、まず相手、自分の順でお互いのコールサインを呼び合ってから発言するとか、
   会話に割り込むときにブレイクという宣言をしたりとか、そういうやつ。

FM波はかなりクリアに音声が伝わる。
ハンティングに必要なかったのでボリュームを絞っていたが、明瞭な女の声だった。
女『A君、A君・・・』
233 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 19:01:17.97 ID:W656mdNS0
鬼役か他のチームのイタズラかとも思ったが、ハンティング中の発信は妨害にもなるので御法度だ。
それに、AM波と違って混信もあり得ない。FM波は電波の強い方が勝つし、
無線機のdbメーターを見ても、呼びかける女の電波の強さはさっきと同じだった。
女『A君、A君・・・』
俺はこんな声の女は知らなかったので、無線機のボリュームを上げた。
俺「誰かお前呼んでるぞ」
A「狩りやってるチャンネルで?」
しかし、女は呼びかけてこなかった。
チャンネルが同じ、電波の強さが同じ、混信のないFM波。
これはフォックスから呼びかけてるんじゃないか? とAに言ったが、
Aは気のせいだと言いハンティングを再開したので、俺も気にしない事にした。
234 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 19:02:23.20 ID:W656mdNS0
20分もすると、かなりフォックスの場所が絞れてきた。
俺たちは無線部室のある一階の部室棟から、本校舎の三階まで移動してきていた。
  ※コンテスト日だったので、顧問の先生+αが宿直しており、夜でも校舎は開いていた。
俺「ここって?」
A「図書室とか音楽室とか、三年生の教室があr・・・」
女『A君、A君・・・』
再び女が呼びかけてきた。
ボリュームを上げたままなのを忘れていた俺は、突然の呼びかけにビビったが、Aは違った。
目を見開き、俺の持つ無線機にかじりついた。
A「B先輩?!」
女『A君、A君・・・』
A「おい! 早く狐の場所さがしてくれ!!」
なぜAが血相を変えているのか、俺には判らなかった。
俺「え、なに? 狐のとこにB先輩って人がいるの?」
Aは俺から無線機とアンテナをひったくると、俺を無視してフォックスを探し出した。
235 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 19:03:25.73 ID:W656mdNS0
Aは三年四組の教室の前で立ち止まり、"まさか・・・"と呟いた。
Aがドアに手をかけた、そのとき、
女『A君、A君・・・元気でね・・・』
A「B先輩!!」
教室の中には誰もいなかった。
俺は、呆然として座り込んでしまったAから無線機を受け取ると、フォックスを見つけ出した。
教室後方、真ん中ぐらいの机の中にあった。
俺がフォックスを取り出してAに見せると、Aは声を上げて泣き出した。
236 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 19:04:30.97 ID:W656mdNS0
後から他の部員に聞くと、そこはB先輩の席だったそうだ。
AとB先輩は、高校に入ってからつきあいだしたそうだ。
しかし、二人そろって進級した四月、B先輩は"自転車"で登校中に交通事故で亡くなったらしい。
Aは悲痛なほど落胆したが、最近ようやく他者と普通の会話ができるようになり、
今回のコンテストもリハビリ的なニュアンスで参加したしたとの事だった。

他の部員曰く、Aが立ち直り始めたので、
面倒見がよく、心配性だったB先輩が"本当のお別れ"を言ったのではないか、とのことだった。
しばらくして落ち着いたAは、ずっと見守ってくれていたB先輩が、やっとあの世にいけたんだろうと言った。
237 830 ◆rj2q8UtfJU [sage] 2011/09/30(金) 19:05:34.88 ID:W656mdNS0
最後に。
なぜフォックスをあの場所に(Aも探すのに)隠したのか、と鬼役に詰め寄ってみたが、
一階にある"駐輪場"のトタン屋根に隠した、と言って譲らなかった。
多分、本当なのだろうと俺は思った。

おしまい

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